世田谷Nakamachi WEB MAGAZINE

Morning Shift 円熟、そして悲劇...二面性を持つ秋の朝にこそ読みたい珠玉の文学作品5冊 2015.10.30

円熟、そして悲劇...二面性を持つ秋の朝にこそ読みたい珠玉の文学作品5冊

秋、それは実りの季節。食卓には豊潤な大地の香りが漂い、それを囲む人の顔を鮮やかに彩ります。

秋、それは散りゆく季節。桜同様、紅葉の美しさは刹那的ですが、春とは異なり新芽たちは息吹くことなく、樹々は虚無感を装います。

二つの、背反する表情を有する季節、それが秋。そんな喜びと悲しみが入り交じった秋の朝こそ、部屋の窓を開けて、生まれたての秋の風を楽しむというのも心地良いものです。

そんなノスタルジックな時間こそ、朝読書という贅沢で大人な時間の使い方をしてみるのはいかがでしょうか。特に秋の描写が美しい詩や小説、秋という季節の儚さを表現した作品に目を通すことは朝の時間を様々な表情に変化させます。

今回は、そんな秋の朝にこそ読みたい文学作品を5冊選定しました。作品の概要とともに紹介していきます。

1.ジョン・キーツ『秋に寄せて』

ロンドンで生まれたジョン・キーツは、25歳という若さで生涯を閉じた詩人。詩人としての活動は3年で、作品数こそは少ないものの傑作を遺しています。

「美しきものはとこしえに歓びである」という言葉の通り、美しい情景描写に定評があります。

特に、『秋に寄せて』では秋の実りの風景を映し出し、ゆったりとした田園風景を想起させつつも、巧みな隠喩によって死を連想させる表現も行っています。

たとえば「大きくなった子羊(full-grown lambs)」という表現。たった一言を通じて秋の実りの豊かさを感じさせるとともに、食肉としての宿命的な「死」を予感させます。

豊潤な季節の情景のなかに浮かび上がる、ゆっくりと終末に向かっていく「儚さ」を通じて、移りゆく季節を感じることができます。

対訳 キーツ詩集

2.中原中也『盲目の秋』

中原中也もジョン・キーツと同様に若くして死去した天才詩人。
繊細な言葉選びから綴られる美しい詩は、女性ファンも多く、今なお人気の詩人と言えます。

「聖母崇拝を表現した『盲目の秋』の第三連と第四連では、「女性の胸の中で息絶える」という男の極限のロマンを描いていますが、中原中也はその詩作品のなかで自らの死の場面を繰り返し書いた詩人です。その儚い自画像が、詩人自身の夭折と重ねあわさることにより、中也は数多くの文学少年・文学少女の悩ましい想いの代弁者となったのでした。

一部を抜粋してみてみましょう。

おお! 私の聖母(サンタ・マリヤ)!
いまさらどうしようもないことではあるが、
せめてこれだけ知るがいい——
ごく自然に、だが自然に愛せるということは、
そんなにたびたびあることでなく、
そしてこのことを知ることが、そう誰にでも許されてはいないのだ。

せめて死の時には、
あの女が私の上に胸を披(ひら)いてくれるでしょうか。

絶叫にも似た情熱と、不思議な静けさが混じり合うこの詩を、どうか秋の凛とした冷気のなかで「声」にだして読んでみてください。自然と喉の奥がふるえてきてしまうでしょう。

盲目の秋

3.夏目漱石『彼岸過迄』

1912年に朝日新聞で連載されていた夏目漱石の長編小説『彼岸過迄』。漱石の後期三部作の第1作にあたります。

複数の短編を重ねることで、1つの長編小説を構成している。ミステリー的な要素を持つ探偵小説で、漱石は登場人物の1人である須永に自身を重ね、苦悩を描いています。

『彼岸過迄』は、後期作品の『三四郎』や『坊っちゃん』よりも主人公の苦悩が押し出され、鬱屈した印象であり、人物を深く掘り下げているため重厚感があるにも関わらず、心理描写をきめ細やかにしています。

出版から100年が経過したにも関わらず、色あせることのない魅力がつまった1冊です。

一気に読むというよりは、秋の朝や夜長などに時間をとり、じっくりと噛みしめながら読み進めるのに向いています。

彼岸過迄

4.樋口一葉『十三夜』

十三夜は、旧暦の9月13日から14日にかけての夜のことをいいます。
樋口一葉の描く『十三夜』もそんな月夜の晩を舞台にしています。

主人公のお関は、7年間連れ添った夫からの仕打ちに耐えかねて、離婚を決意し実家に戻りますが、父に諭され夫と子どもの元に戻ることにします。
その帰路に乗った人力車を引いていた男は、お関が初恋を抱いた録之助でした。

透明な憂いをおびた十三夜の月が、艶やかに照らし出すひとつの女心。秋は、女性の苦悩をもっとも美しく彩る季節かもしれませんね。

現代語訳 樋口一葉「十三夜 他」

5.ウィリアム・フォークナー『エミリーに薔薇を』

ノーベル文学賞受賞の20世紀アメリカ文学の巨匠ウィリアム・フォークナーの『エミリーに薔薇を』はミス・エミリーの愛のエゴイズムを描いています。

物語は、ミス・エミリーの葬儀から始まりますが、街の有名人であった彼女には奇妙な噂がありました。この作品では、そんな謎にみちたエミリーの一生が、時系列をバラバラに崩した形で表現されます。こうすることで、読者に「夢」のように実態のない過去の手触りを感じながら、少しずつエミリーの孤独の核心へと近づいていくのです。

「時間が止まるとき、時間は生き返る。」これは作者であるフォークナーのセリフですが、衝撃のラストで明らかになる、エミリーの「究極のエゴ」ともいえる愛の形。そこには、人生の最良の時間を結晶化させ、「生きている過去」へと囚われてしまった女性の姿が表されています。

フォークナー短編集

秋に読みたい珠玉の5冊

20世紀を代表する批評家の一人であるノースロップ・フライは『批評の解剖』のなかで、物語のパターンを「四季」の情感を通じて分類しています。「春」はロマンス、「夏」は喜劇、それでは「秋」は…? そう、「悲劇」なんです。

美しい季節だからこそ、「悲しい気分」が浮き立つのか。はたまたその逆か。

いずれにせよ、文学作品のなかには、まるで枯れた穂から種が落ちるように、誰かの人生が残した「悲しさ」の香りが漂っています。

美しい秋の朝は、そんな「悲しさ」をコーヒーの香りのなかに溶かし込みつつ、珠玉の本とともに、ぜいたくな読書の時間を楽しんでください。

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